はじめに
最近の扇風機は省エネなDCモーターが主流ですが、昔ながらの「ACモーター扇風機」には独特の風情と堅牢さがあります。
今回、ジモティーでおしゃれな『MERCURY(マーキュリー)』のスタンドファンを譲っていただきました。しかし、**「羽がゆっくりしか回らない」**という不具合付き。
「ACモーターで回転が遅いなら、十中八九コンデンサの容量抜けだろう」 そう高を括って分解を始めたのですが……意外な結末が待っていました。
この記事では、ヴィンテージ風扇風機の分解手順、故障診断、そして意外だった不調の原因と解決策を写真付きで解説します。
今回の患者:MERCURY スタンドファン
- 症状: 羽根の回転に勢いがない(ゆっくり回る)
- 予想される原因: 起動用(進相)フィルムコンデンサの劣化
- 実際の原因: スイッチ端子の接触不良(+軸周りのグリス固着)
扇風機の仕組み(ACモーター)をサクッとおさらい
修理の前に、構造を簡単に理解しておきましょう。この扇風機は非常にシンプルで、主な電気部品は3つだけです。
- 単相ACモーター: 心臓部。
- 進相コンデンサ(フィルムコンデンサ):無極性なので家庭用電源(単相交流)でモーターを回すために、「位相」をずらして回転力を生み出す重要パーツ。これが劣化すると回転が遅くなります。
- スピード切替スイッチ: 切り・弱・中・強を切り替えます。
修理ステップ①:分解とスイッチの確認
1. ツマミ類を外す
まずは「電源・風量ツマミ」と「首振りツマミ」を外します。
- 風量ツマミ:上に引き抜くだけ。
- 首振りツマミ:プラスドライバー(#2)でネジを外してから引き抜く。


【補修メモ】 スイッチを固定している14mm六角ナットのネジ山(プラスチック製)が折れていました。アセトンで接着できたため、材質はPP(ポリプロピレン)等のようです。古いプラスチックは脆いので注意が必要です。

2. モーターカバーを開ける
白いカバーを外します。ここは一般的なプラスネジではなく、**「三角ネジ(2.7mm)」**が使われていました。専用ドライバーが必要です。

👇ドライバーセット(三角ネジ用)
意外な落とし穴、三角ネジ。これがないとカバーが開けられません。ビットセットを持っておくと便利です。
3. コンデンサの容量チェック
ここが一番の容疑者、「進相コンデンサ(250V 2μF)」です。 配線を外し、テスターで容量を計測してみると…… 測定値:1.98μF 「あれ? 正常だ……」 ほぼ定格通りで、劣化していません。つまり、回転が遅い原因はコンデンサではありませんでした。

👇デジタルマルチメーター(コンデンサ容量測定機能付き)
『コンデンサの故障かな?』と勘だけで部品を買う前に、テスターで測定すれば無駄な出費を防げます。
修理ステップ②:モーター内部と軸周りのメンテナンス
原因が電気系統(コンデンサ)でないなら、機械的な抵抗か、接点不良を疑います。せっかく開けたので徹底的にオーバーホールします。
1. 首振り機構の取り外し
- 首振り機構のカバーとステーを外します。



2. モーターステーターの取り外し
- モーターを固定している7mmの六角ナット(4本)を外し、ステーター(コイル部分)とケースを分割します。




3. ローター軸の取り外し
軸をチェックすると、古いグリスが固着し、回転の抵抗になっていました。


4. 【DIY】劣化したスペーサーの自作交換
軸の前後に付いていた黒いワッシャー(スペーサー)が、経年劣化でパリパリに割れていました。
- 採寸: 厚みを測ると約1.1mm。
- 代用品: 手持ちの「ハット型キャップ」のツバの部分が厚みぴったりだったので、加工してワッシャーを自作しました。
- ※本来は前後にありましたが、後ろ側に1枚入れるだけで動作に支障はありませんでした。

5. ローター軸、軸受ジョイント清掃&グリスアップ
- 清掃: IPA(イソプロピルアルコール)で古い油汚れを拭き取ります。
- グリスアップ: 軸受ジョイント(ボール状の部品)にペースト状のシリコングリスを塗布。
- 給油: 軸受の周りにある白いフェルト(保油材)に、信越シリコーンを含ませておきます。本来はミシン油などが適していますが、手持ちで代用しました。
後ろ軸受ジョイント



前軸受ジョイント


左右首振り機構

👇AZ(エーゼット) シリコングリース
モーター軸の潤滑には、プラスチックを侵さず熱に強いシリコングリスが必須です。
修理ステップ③:真犯人は「スイッチ」だった!
コンデンサは正常、軸もスムーズになった。でもまだ何か怪しい。 そこで、スピード切替スイッチを点検しました。
接点復活作業
スイッチにつながる4本のケーブルの留め具をマイナスドライバーで外し、接点部分を確認。 IPA(アルコール)で接点を徹底的に清掃したところ……汚れで導通が悪くなっていたようです。 ここを磨いたことで、電気がスムーズに流れるようになりました。


👇KURE(呉工業) 接点復活スプレー (接点復活剤)
今回の真犯人はスイッチの汚れ。IPAがない場合は、このスプレーをひと吹きするだけで通電が復活します。
組み上げ・動作確認
逆の手順で組み上げていきます。 コンデンサの配線は「絶縁被覆付閉端接続子(CE1形)」を使って安全に圧着接続し、タイラップで配線を整理します。
スイッチオン! 「ブォォォン!」 羽根が勢いよく回り始めました。 結局、軸を手で回した重さは修理前後でさほど変わらなかったため、**「スイッチ接点の汚れによる電圧降下」**が、羽根がゆっくり回る主な原因だったと推測されます。



修理後のスペック:MERCURY 10 inch METAL STAND FAN
無事に現役復帰したこの扇風機。アメリカンビンテージな見た目ですが、日本の「株式会社マーキュリー」の製品のようです。
- サイズ: 幅33.4×奥行33.4×高さ85~119.5cm
- 羽根径: 約30cm
- 重量: 約4.78kg(スチール製で重厚感あり)
- 機能: 風量3段階、自動首振り(左右80度)
- 消費電力:約30W
古い家電を直して使うと、愛着もひとしおです。 同じように「コンデンサを変えても直らない!」という方は、ぜひスイッチの接点や軸の固着も疑ってみてください。
👇残念ながら修理ができなかった時の現行メタル扇風機。

