はじめに:その「爆音」、諦めるのはまだ早い
「手で淹れるよりも美味い」と評判のパナソニック全自動コーヒーメーカー。長年連れ添ったこの愛機から、最近こんなサインが出ていませんか?
- 豆を挽く際、耳を覆うような甲高い爆音がする
- 挽き終わっているのに、ミルが自動で止まらない
「刃がダメになったか」「もう寿命か……」 そう判断して買い替える前に、少しだけ待ってください。それは致命的な故障ではなく、単なる**「モーター整流子の汚れ」**である可能性が高いのです。
メーカー修理なら数千円、買い替えなら2万円。しかし、自分の手でメンテナンスすれば費用はタダ(または数百円のケミカル代のみ)。 何より、機械内部に溜まった数年分の垢を一掃し、静寂を取り戻す作業は、格好の週末プロジェクトになります。
故障の正体:なぜ「止まらない」のか?
いきなり結論から申し上げます。 原因はモーター内部にある「整流子(コミュレーター)」へのカーボンカスや油分の堆積です。
汚れや酸化被膜が厚くなりすぎると、電気的な接触不良(断続的な通電不良)が起きます。これが異常な振動を生み出し、「まだ豆を挽いている最中だ」と振動センサーに誤認させてしまうのです。
このまま放置すればモーターが異常摩耗して本当に壊れてしまいますが、今の段階なら「掃除」だけで完治する可能性が非常に高いです。
準備:道具とケミカル
今回のターゲットはパナソニックの名機『NC-A56』ですが、同系等のNC-A55P / NC-A55 / NC-A57なども基本構造は同じです。
必須ツール
- プラスドライバー(2番):
- 推奨:WERA Kraftform Plus。レーザーチップがネジに食い込み、固着したネジも舐めずに回せます。良い工具は作業の質を上げます。
- ピンポンチ(2mm)&ハンマー: ミル刃を外すために必要です。
- 洗浄剤: パーツクリーナー、またはIPA(イソプロピルアルコール)。
- ブラシ: 使い古しの歯ブラシ等。
推奨ケミカル(グリス)
- シリコングリス(またはフッ素グリス): モーターシャフトの潤滑用。
- ※重要:ご家族の健康を気遣うなら「フードグリス(食品機械用)」がベストです。
モーターユニット純正品
いっそのことモーターユニットごと交換したいという貴方へ、純正モーターユニットがネットで手に入ります。
●対応器具:NC-A55P / NC-A55 / NC-A56 / NC-A57
実践!分解と清掃の5ステップ
※注意:NC-A58は設計が根本から変わっているため、記事内の「分解ステップ」はそのまま適用できません(モーター自体は類似の整流子モーターの可能性がありますが、アクセス方法が不明です)。 読者が混乱しないよう、「この記事の分解修理手順は、主にNC-A57以前のモデル(A55/A56/A57)を対象としています」
※警告:必ずコンセントを抜いてから作業を開始してください。感電の危険があります。
まずは「衣」を脱がしていきます。
バケット、ガラス容器、水タンクを全て取り外します。
背面上部のネジ(2本)、豆投入口周りの黒い皿ネジ(4本)を外します。
右側のカバーを外すとドーム部を外すことができて、 隠しネジ(1本)が現れるので外します。
これで上部のプラスチックカバー全体が取り外せます。







この状態で緑色の基板(振動センサー)を確認できます。
心臓部にアクセスします。ここまではドライバー1本で可能です。
モーターに繋がる白いコネクタを抜きます。
モーターユニットを固定しているネジ(2本)を外します。
ユニット裏側の赤いコネクタを抜けば、モーターユニットごとゴソッと取り出せます。





ここが一番の山場です。慎重に行いましょう。
豆投入口(ネジ2本)を外します。
ミル刃の取り外し: 固定しているスプリングピンを、2mmのピンポンチで打ち抜いて外します。
モーターのプラカバー(ネジ2本)を開け、ゴムブッシュとリングを外します。
ブラケット(金属板)を外すと、モーターのローター(回転軸)を抜くこともできますが、カーボンブラシに傷を入れたくなかったので今回は抜きません。
Check: 内部はコーヒーの微粉と油分で驚くほど汚れているはずです。これらを綺麗にするだけでも愛着が湧きます。










ここまで分解したら整流子側のBKTも外してモーターローターコアを抜いて整流子を清掃しても良かったのですが、カーボンブラシを折るなどやらなきゃ良かった状況に陥る予感がしてやめました。
ここまでの作業で外したプラスチックカバー、パッキン、洗える部品などはセスキ炭酸ソーダ、クエン酸、中性洗剤で洗浄しておきます。ピカピカになりますよ。
モーターの回転軸にある銅色の部分、ここが「整流子」です。
清掃: 整流子の溝に詰まったカーボンカスをブラシで徹底的に掻き出します。
脱脂: IPAやパーツクリーナーを含ませたダスパー(クリーニングペーパー)で、整流子表面をピカピカに拭き上げます。
※溝が深くなければ研磨までする必要はありません。汚れを落とすだけで十分効果があります。
※注意:ここには絶対にグリスを塗らないでください!通電不良の原因になります。基本ドライです。


最後は潤滑を与えて組み上げます。
グリス塗布: モーターシャフト(軸)と軸受け部分に、薄くグリスを塗ります。
逆手順で組み立て:
ローターを戻し、ワッシャー類の順番(平→波→平)を間違えないように。
ミル刃を戻し、ピンを打ち込みます。
配線を挟み込まないよう注意しながら、ケースを閉じます。








動作確認:あの「静寂」が戻ってくる
ネジの余りがないか確認し、コンセントを接続。 豆を投入してスイッチオン。
「ガリガリガリ……シーン」
以前の甲高い爆音は消え、挽き終わると同時にピタリと止まる。あの心地よい動作音が戻ってきたはずです。これで修理完了です。

【最新版】パナソニック NC-Aシリーズ 機種別比較・互換性表
本記事の修理対象はNC-A56ですが、モーター清掃の考え方は歴代機種で有効です。ただし、最新のNC-A58は構造が大きく異なります。
| 型番 | 発売時期 | 特徴・主な変更点 | 修理・部品の互換性メモ |
|---|---|---|---|
| NC-A55P NC-A55 | 2009年頃 | 【名機】 沸騰浄水機能を搭載した基本モデル。今の全自動スタイルの完成形。 | 構造: A56/A57と共通 ガラス容器: A56と共通 活性炭フィルター: 共通品番 |
| NC-A56 | 2014年 | 【デカフェ機能追加】 「豆の挽き分け(粗挽き/中細挽き)」フィルター2種付属になり、カフェインレス豆専用コースを搭載。 | 構造: 共通(本記事のモデル) ガラス容器: A55と共通 活性炭フィルター: 共通品番 |
| NC-A57 | 2018年 | 【ロングセラー】 デカフェ機能が進化(「デカフェ豆」コース)。マイコン制御の最適化が進む。 | 構造: 共通 ガラス容器:互換性なし(独自形状) 活性炭フィルター: 共通品番 |
| NC-A58 | 2025年 | 【フルモデルチェンジ】 幅約15cmのスリム設計に一新。「ストロング」コース追加。容量は4カップに縮小。 | 構造: 別物(分解手順は異なります) ガラス容器: 互換性なし(専用品) 活性炭フィルター: 非搭載 |
⚠️ ここだけは注意!「ガラス容器の罠」
見た目はそっくりですが、NC-A57だけガラス容器(デカンタ)の形状が異なります。 NC-A56以前のモデルをお使いの方が、間違えて現行品(A57用)のガラス容器を買ってしまうケースが多発しています。
- NC-A56 / A55系用: ACA10-142-K
- NC-A57用: ACA10-1421K0
- NC-A58用: ACB10-176 (サイズ・形状ともに全くの別物です)
【番外編】消耗品リスト(純正部品)
長く使うなら、消耗品の交換も検討してみてください。
活性炭フィルター 純正部品番号:ACA95-119-K
【対応機種】NC-A25/NC-A55/NC-A55P/NC-A56/NC-A57
水容器 純正部品番号:ACA20-167-K0
【対応機種】NC-A57
ガラス容器 純正部品番号:ACA10-142-K
【対応機種】NC-A25/NC-A55/NC-A55P/NC-A56
ガラス容器 純正部品番号:ACA10-1421K0
【対応機種】NC-A57
ガラス容器のフタ 純正部品番号:ACA92-119-K
【対応機種】NC-A25/NC-A55/NC-A55P/NC-A56/NC-A57
コーヒーミル用 バスケット 純正部品番号:ACA19-167-K0
【対応機種】NC-A57
コーヒーミル用 バスケットふた 純正部品番号:ACA21-142-K
【対応機種】NC-A25/NC-A55/NC-A55P/NC-A56/NC-A57
メッシュフィルター 中細びき 純正部品番号:ACA13-1191T0
【対応機種】NC-A56/NC-A57
メッシュフィルター 粗びき 純正部品番号:ACA43-157-G0
【対応機種】NC-A56/NC-A57
編集後記
新しい家電を買うのは簡単です。しかし、手をかけてメンテナンスした道具には、新品にはない「魂」が宿ります。 「まだ使えるものは、直して使う」。そんな大人の流儀で、今週末は愛機のメンテナンスなどいかがでしょうか。
ねこ先生とは言っても、部品交換で直らない場合や、バラす手間を考えると、新品に交換してしまうのが一番早くて確実です。
最新NC-A56、57後継機は2万円程度で買えるので、新品を買うのも手です。

