はじめに
こんにちは。当ブログではこれから、国産ヴィンテージ時計を中心とした修理・メンテナンス記事を本格的にスタートします!その第一弾として、メルカリでお迎えしたシチズン(Citizen)エコドライブ ダイバーズウォッチのメンテをお届けします。
- モデル: AIR DIVERS(キャリバー:E168-T005446 GN-4W-UL)
- 主な症状: ガラス風防内側の曇り(結露・水滴跡)
長年使用されたダイバーズによくある「風防内側の白い曇り」。これはパッキンの経年劣化により、内部に微量な湿気が侵入したことが原因です。
内部に水分が侵入し、風防(ガラス)の内側が白く結露して曇ってしまったシチズン エコドライブ ダイバーズウォッチ
このモデルの最大の特徴は「ワンピースケース(裏蓋がない一体型構造)」であること。通常の時計のように裏からアプローチできないため、今回は「上(風防側)から順番に攻めていく」という特殊な手順で分解・清掃を行いました。トラック整備や電子機器修理の現場で培った視点も交え、リアルなDIY手順を解説します!
使用した工具・ケミカル一覧
時計専用ツールだけでなく、「この作業にはこれが効く!」という他分野の優秀なアイテムも取り入れています。
| 工具・ケミカル | 用途 | 備考 |
| 強力スナップ裏蓋オープナー(SEIKO S261) | 風防ベゼルのこじ開け | 本格作業の必需品 |
| ダイバーズベゼル用コジアケ | 回転ベゼルの取り外し | ケースオープナー |
| バネ棒外し / 時計ドライバー | ベルトの取り外し用 | 明工舎 MKS46000など |
| レンズティッシュ(ダスパー K-3) | 風防内側の乾拭き・清掃 | 光学機器用のプロ御用達 |
| 高級フッ素グリス(PFPE/PTFE系) | パッキン・スプリングの潤滑 | シリコンの上位互換として使用 |
| 瞬間接着剤用スティック(ダイソー) | パッキンの押し込み・位置調整 | 柔らかい樹脂製で傷がつかない |
| マチバリ / ピンセット / ベンジン | サビの掻き出し、パーツ清掃用 | 細部メンテナンス用 |
| 裏蓋閉め器(圧入機) | 風防ベゼルの組み立て時 | 駒セットのもの |
分解・清掃手順
作業前の準備
作業中に内部や文字盤へゴミが混入するのを防ぐため、まずはケースとベゼルの外側をしっかりと清掃(ブラッシング等)しておきます。
清掃前 清掃後
1. ベルトの取り外し
ベゼル操作の邪魔にならないよう、最初にバンドを外します。スプリングバー(バネ棒)式なので、バネ棒外しや時計ドライバーを使って丁寧に抜き取ります。
バンドの種類によって写真のバネ棒外しを使用しています。状況によりどれも必需品
👇明工舎製作所(MKS) バネ棒外し 46000
時計大国・日本が誇る明工舎の定番バネ棒外し。メタルバンドのピン抜きポンチとしても使える1台2役で、これ一本持っておけばすべてのベルト交換が劇的に楽になります。
ポチップ
👇両つかみ式バネ棒外し
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2. 回転ベゼル(ダイバーズベゼル)の取り外し
このモデルはスナップ式の回転ベゼルです。コジアケを使い、全周から少しずつ浮かせるようにして外します。一箇所だけに強い力をかけるとケースを傷つけるので、均等に力をかけるのがコツです。
👇こじ開け器
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ベゼルを外すと、クリック感を出すための「ラチェットスプリング(クリックばね)」が現れます。2箇所のピンで位置固定されているため向きは間違えにくいですが、形状と向きをしっかり記憶して取り外します。内部の長年のゴミはベンジンできれいに洗浄しました。
ラチェットスプリングを取り外した所 ラチェットスプリング裏側の2箇所のピン
3. 風防ベゼルのこじ開け(ここが難所!)
いよいよワンピースケースの本番です。12時位置付近にベゼルを外すための専用の隙間(ノッチ)があります。
12時位置にベゼルを外すための隙間
ここに「SEIKO S261」のような強力なスナップオープナーをセットし、反対側からコジアケを入れて慎重に風防ベゼル(クリスタルリング)をこじ開けます。
非常に固く圧入されている個体が多いため、ケースをしっかり固定して刃先をあててください。
Seiko S261でこじ開けたままベゼルの反対側にコジアケを入れてベゼルが外れた 風防ベゼルを外して文字盤が現れた
👇SEIKO(セイコー)強力保持器・裏蓋オープナー S-261
はめ込み式(スナップバック)裏蓋やワンピースケース攻略の絶対的エース。素人がケースやベゼルを無駄に傷つけず、確実かつ安全にこじ開けるためには、このプロ用ツールの剛性がどうしても必要です。
ポチップ
※今回はパッキンの手持ちがなかったため既存のものを再利用(位置をずらして調整)しましたが、刃先でパッキンを傷つけやすい作業です。本格的な防水性を戻すなら交換前提での作業をおすすめします。(今回は潜水用ではなく、あくまで普段使いの見た目改善が目的です)。
風防ベゼルのパッキンがSeiko S261の爪で傷ついた
4. 風防内側の清掃
取り外したガラス風防の内側を、レンズティッシュ(ダスパー K-3)で乾拭きします。
曇りの原因である水分や油分、埃を優しく拭き取ります。ティッシュを何度も新しいものに交換しながら、隅々までクリアに仕上げるのがポイントです。
レンズティッシュ(ダスパー)を下に敷き風防清掃
👇小津産業 レンズティッシュ ダスパー K-3
光学機器やカメラのCMOS清掃でもプロが長年愛用する最高峰のティッシュ。毛羽立ちが一切なく、ガラス風防の内側を曇り一つなくクリアに拭き上げるための必須アイテムです。
ポチップ
5. ケース側のサビ・汚れ除去
風防パッキンが密着するケースの溝をチェックすると、やはりサビが発生していました。ここを放置すると再び曇る原因になります。
ピンセットで大きなサビを落とし、細かい部分はマチバリを使って丁寧に掻き出します。
- 現場の知恵: サビ取りの際は、削りカスが文字盤やケース内部に落ちないよう、時計を立てて「サビている面を下に向けて」作業すると内部への異物混入を防げます。
ケース側のサビと真鍮リングにもらいサビ
組み立て・圧入工程
6. 風防ベゼルの取り付けと「フッ素グリス」の選択
清掃した白パッキン(断面が四角い角リング、実測:内径30.8mm/厚み0.6mm/高さ1.3mm)とラチェットスプリングには、ごく薄く「フッ素グリス」を塗布し、レンズティッシュで軽く拭き上げました。
時計の防水パッキンには高粘度のシリコングリスが使われるのが一般的ですが、今回はあえて上位互換として高級フッ素グリス(PFPE/PTFE系)を採用しました。理由は以下の通りです。
- 抜群の材質適合性: ゴムやプラスチックを一切侵さない(溶かしたり膨張させたりしない)。
- 圧倒的な耐久性と耐水性: 海水や汗にさらされても流れ出さず、シリコン以上に乾きにくい。
- よじれ防止: パッキングリスの本来の役割は「締め込み時のゴムのよじれ防止」と「微細な隙間の充填」です。粘度が低く塗りやすいフッ素グリスを極薄く(油膜だけ残る状態に)塗ることで、圧入時にパッキンが連れ回りしてズレるのを綺麗に防げます。
パッキンとラチェットスプリングに使用したフッ素グリス 👇フッ素グリス
海水で流れないプラスチックを痛めないシリコングリス以上の高性能グリス
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パッキンは先にケース側へ仕込もうとするとヨレて入らないため、ベゼル側にあらかじめセットします。「キズミ(ルーペ)」でヨレやはみ出しがないか入念にチェック。
風防ベゼルパッキンはベゼル側によれないように手である程度入れておく
ここで役に立ったのが、ダイソーの「瞬間接着剤用スティック」。柔らかいプラスチック製なので、デリケートなパッキンを傷つけることなく、正確な位置へ押し込む代用工具として最高のパフォーマンスを発揮してくれました。
瞬間接着剤用スティック
位置が決まったら、風防の目盛りが文字盤とズレないように手でハメ込み、最後は「裏蓋閉じ器」を使って垂直にしっかりと圧入します。
👇裏蓋閉じ器 18個駒セット
ビンテージ日本製も持っているがこちらの方が使いやすくて安い。
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7. 回転ベゼル・ベルトの取り付け
回転ベゼルをケースに乗せ、最初は平行に押し込もうとしましたが全く入りませんでした。
コツとしては、まず6時位置側をしっかりハメ込み、そこから12時位置側へ向かって倒し込むようにして、最後に手で上からグッと抑え込むと、すんなりパチンと収まります。
風防(ガラス)の内側の曇りが取れてスッキリしたシチズン エコドライブ ダイバーズウォッチ
最後にマイナスドライバーやバネ棒外しを使ってベルトを元通りに取り付ければ作業完了です!
エコドライブ ダイバーズウォッチ用ラバーベルトの純正尾錠(バックル)
修理完了!クリアな視界が復活
ガラス内側の曇りが完全に消え去り、文字盤本来の美しいディテールがクリアに蘇りました!光を遮っていた曇りが取れたことで、エコ・ドライブのソーラー発電効率も大幅に回復したはずです。
今回メンテナンスしたシチズンの名作キャリバー「E168」は、現行のプロマスターにも受け継がれている信頼のソーラー駆動エンジン。定期的な電池交換が不要で、満充電から約6ヶ月間も駆動し、充電不足時には秒針が2秒運針して教えてくれる頼もしい相棒です。
機種番号(キャリバー番号)E168搭載機
👇CITIZEN PROMASTER(BN0156-05E)
プロマスター現行品
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👇CITIZEN PROMASTER(BN0226-10P)
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おわりに:時計修理という深い沼へ
実は私、30年前に初めてアルバイトをして買った思い出の時計「TISSOT(PR100)」が壊れてしまったのを機に、「自分で直してみたい!」と一念発起して分解したのがすべての始まりでした。
それまでは電池やバンド交換しかやったことがなかったのですが、突然時計修理の魅力に目覚めてしまい……気付けばこの1ヶ月間で、工具や国産ヴィンテージを中心に39本もの腕時計(懐中時計含む)に50万円以上を投資するという、凄まじいディープな沼にハマっております(笑)。
ワンピースケースの分解は傷つきやすく難易度も高いため、初心者の方には手放しでおすすめはできませんが、適切な道具と手順を踏めば、眠っていた時計を自分の手で美しく蘇らせることができます。
この一生楽しめる深い趣味の世界を、できるだけコストを抑えつつ楽しむノウハウを今後も発信していきます。今後はリコー、オリエント、セイコー、シチズンなどの国産ヴィンテージ機械式時計のメンテ記事をどんどん増やしていく予定ですので、これから時計修理を始める方の参考になれば幸いです!
あわせて読みたい「本物を次世代へ」引き継ぐ逸品
今回はシチズンの名作ダイバーズに新たな命を吹き込みましたが、当ブログの「本物を次世代へ」カテゴリーでは、時計に限らず、日本が誇る素晴らしい「一生モノの道具」についても発信しています。
次にみなさんにご紹介したいのは、日本の万年筆の最高峰である**プラチナ万年筆の「#3776」**です。 昨今の物価高騰の波の中で、この歴史的名作が値上げされた本当の理由と、それでもなお「今、手に入れておくべき理由」を考察しました。道具を愛するすべての方に読んでいただきたい内容です。
👉 【プラチナ万年筆 #3776】値上げの理由と、それでも私たちが「一生モノ」として今手に入れるべき価値
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