はじめに
今でこそ機械式腕時計のオーバーホールや修理を趣味として楽しんでいますが、最初から上手くできたわけではありません。
むしろ、私が時計修理を本格的に学ぶきっかけになったのは、一台の時計を自分の手で木っ端微塵に壊してしまった苦い失敗でした。
今回ご紹介するのは、往年の名機「シチズン・クリスタルセブン」の修復記録です。
しかし、今回の主役は綺麗な修理そのものではありません。初心者だった私が犯した致命的な失敗と、そこから血の滲む思いで学んだ教訓、そして執念のリカバリー(現在進行形)の記録です。
もしこれから古い機械式時計の分解やオーバーホールに挑戦する方がいれば、私と同じ地獄を見ないための参考になれば幸いです。
すべての始まりは一台のクリスタルセブンだった
今回修復(そして実験)のベースとなっているのは、メルカリで購入した当時稼働品だったシチズン・クリスタルセブン 27石モデル【1966年(昭和41年)2月製造 / 型番:ACSS 51301-T】です。
実はこの時計こそ、私が初めて機械式時計のオーバーホールに挑戦した際の「初代・犠牲者」です。今でも見るたびに、当時の冷や汗が蘇ります。
📸 中古で購入したばかり中古シチズン・クリスタルセブン 27石
構造を「勝手に思い込み」オープナーの刃を折る
当時の私は、ケースの表側(ベゼル側)からムーブメントを取り出す「ワンピースケース」という構造自体を知らなかったわけではありません。知識としては持っていました。
しかし最大の問題は、「目の前にあるクリスタルセブンが、そのワンピースケースである」と現場で判断できなかったことです。
ケースの裏側を眺めながら、
「まあ、これは普通の裏蓋式(スナップバック)だろう」
と勝手に思い込んでしまいました。
裏蓋の隙間らしき線も見えていたため、疑うことなく工具を手に取ります。ところが、裏蓋こじ開け用の定番工具「セイコー純正オープナー S-261」を差し込み、いくら力を掛けてもピクリとも動きません。
それどころか、力を入れすぎたせいで、買ったばかりのS-261の刃先をバキッと折ってしまいました。
📸「セイコー純正オープナー S-261(買ったばかり😿)」の折れた刃
今振り返れば、「開かない時点で構造を疑う」べきだったのです。しかし当時は、「長年のサビで固着しているだけだろう」と思い込み、ここから事態を最悪の方向へと悪化させてしまいます。
👇【おすすめ工具】SEIKO(セイコー) こじ開け(S-261等)
ちゃんとした使用であれば素晴らしい工具(でも構造の見極めはもっと大事)
ポチップ
今思えば恐ろしい行動:カッターとハンマー
「工具で開かないなら、もっと薄い刃を入れて力技で叩けば開くはず」
そう考えた私は、あろうことかカッターの刃をケースの隙間に当て、ハンマーで何度もガンガンと叩いて開けようとしたのです。
今なら絶対にやりません。冷や汗が出ます。精密な機械式時計に対して、ハンマーによる強い衝撃を与えること自体が「即死レベル」の致命傷になるからです。
しかも、そのケースはそもそも「そこからは開かない構造」です。開かない理由も分からぬまま、頑丈な金属の塊を叩き続ける。まさに初心者ゆえの、知識なき暴挙でした。
🚫ワンピースケースをスナップバックと誤認し、無理にこじ開けようとしている時計修理の失敗例
🚫ケースオープナーとハンマー 🚫カッターの刃とハンマー
😱 【悲劇】とうとうケースに穴が開いてしまった……
頑固なサビ(と思い込んでいる)に勝とうと叩き続けた結果、あろうことか金属ケースに穴が開いてしまいました。
やってしまったものは仕方がありません。空いた穴を修正し、ケースの表裏両面からエポキシ接着剤を流し込んで、なんとか応急処置を施しました。時計ケースをエポキシで肉盛り補修する羽目になるとは、この時は夢にも思っていませんでした。
📸とうとうケースに穴が開いてしまった😱
穴が開いたケース 空いた穴を修正してケース表裏両面からエポキシ接着剤を流し込んで応急処置
ムーブメント内部で起きていた悲劇
その後、ようやくこのクリスタルセブンがベゼル側から開けるワンピースケースであり、「巻き芯が2分割タイプなのでリューズを強く引き抜くと外れる」という正しい構造を知り、ようやくムーブメントを取り出しました。
◎ワンピースケース(クリスタルセブン)のムーブメントを上から取り出す正しい分解手順
1.ベゼルを外す
2.風防を外す(専用の風防外しがないため、今回は「吸盤(車のサンシェードに付属していた)」を使って引っ張り外しました!)
3.巻き芯が2分割なので、リューズを強めに引き抜いて外す(※入れる時は位置を合わせないと入らないので注意)
しかし、ケースを開けた頃にはすべてが手遅れでした。内部は度重なるハンマーの衝撃により、目も当てられない悲劇が起きていたのです。
😱ムーブメント内部で起きていた悲劇
1. ダイヤルフット(干支足)の折損
文字盤をムーブメントに固定するための細い柱(干支足)が、衝撃で2本とも根元からポッキリと折れていました。これにより文字盤が正常な位置を保持できなくなり、完全に固定不能の状態に。
📸こじ開けの衝撃によってダイヤルフット(干支足)が折損した様子
2. 自動巻きローターのベアリング大破
ローターのベアリングが衝撃で完全に分解し、中の小さなボールベアリングがムーブメント内にバラバラと散乱。さらに、ローター自体を支える中心の取り付け軸まで折損していました。
📸こじ開けの衝撃によって自動巻きローターのベアリングが大破した様子
3. 二番車の歯欠け
さらに悪いことに、分解時の致命的なミスも重なりました。「ゼンマイの動力を解放(コハゼを外してパワーを抜く)」せずに分解を進めてしまったため、ギヤが一気に暴走。二番車の歯が3本ほど欠け飛んでしまいました。
完全に、私の知識不足と経験不足が招いた大惨事でした。
📸こじ開けの衝撃によって二番車の歯欠け。細ピンで指している箇所)
それでも、この失敗は無駄にはならなかった
普通なら「時計を1台ハメて壊してしまった」という大失敗で終わる話です。
しかし、この木っ端微塵になったムーブメントは、その後の私にとって「何よりも最高の教材」になってくれました。
- 組み立て
- 分解
- 注油
- 再組み立て
すでに壊してしまったムーブメントだからこそ、壊す恐怖を捨てて、納得がいくまで何十回も弄り倒すことができました。
途中でピンセットの先からバネを飛ばして紛失したこともあります。米粒より小さなネジを探して、部屋の床を何時間も這い回ったこともあります。結果として、このボロボロの1台と格闘した時間のおかげで、私は時計修理の強固な基礎体力を身につけることができたのです。
現在進行中の修復チャレンジ(リカバリー)
そして現在、この「かつて自分が壊したドナー機」のパーツを修復しつつ、新しく手に入れた不動の33石モデルの復活に向けて、少しずつリカバリーを試みています。
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🛠️ 干支足(文字盤の足)のハンダ修復
最初は手軽な2液性のエポキシ接着剤で固定を試みましたが、接着面積が小さすぎて強度不足。位置決めも安定せず失敗しました。そこで、意を決して「ハンダ付け」を敢行しました。
📸干支足(文字盤の足)のハンダ修復(左右にスワイプして見てね!)
スクロールできますステップ1 ステップ2 ステップ3 ステップ4
- ステップ1:容易に直立させて干支足をハンダ付けできるよう、文字盤裏面に貫通しないよう細心の注意を払いながら、0.6mmのガイド穴をドリルで開けました。
- ステップ2:フラックスには「ホーザン H-722」、ハンダには「ホーザン H-714」(どちらも電子基板用の信頼できるもの)を使用。位置決め用の簡易治具に文字盤を固定し、最小限のハンダを流し込みます。
- ステップ3:まず1本目の干支足のハンダ付け修復が完了。
- ステップ4:文字盤のズレを防ぐため、一度ムーブメントに仮止めした状態で、もう一方の干支足用の下穴をドリルで開け、2本目も同様に固定しました。
📸干支足のハンダ修復後。熱による文字盤表面の焼けはないが、下穴加工の影響で表面がぷっくりとわずかに膨らんでしまった様子。ただし強度的には問題なし!)
👇フラックス:ホーザン(HOZAN) H-722 文字盤裏や精密部品へのハンダ付けに必須。ハンダをスッと馴染ませ、酸化を防ぎます。電子基板用でサビにくいのが特徴。
ポチップ
ハンダ:ホーザン(HOZAN) H-714 (電子基板・IC用) φ0.8mmの極細タイプ。融点が低い「低温ハンダ」なので、デリケートな文字盤への熱ダメージを抑えて接合できます。
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🛠️ ローター機構の復元
文字盤内や機械の中に散らばった極小のボールベアリングを執念で回収し、再組み立てを実施しました。
📸ローター機構の復元。左右にスワイプして見てね!)
スクロールできますステップ1 ステップ2 ステップ3 ステップ4 ステップ5 ステップ6
- ステップ1:ローター内部に、回収した微小なベアリングボール(27石で見つかったのは14個)を慎重に配置。(※ちなみに、後に購入した33石モデルのローター内を確認したところ、ボールは15個でした。石数による細かな仕様違いかもしれません)
- ステップ2:配置したベアリングボールの上から、慎重に蓋(キャップ)を載せます。
- ステップ3:ボールの上に蓋を載せた、圧入固定前の状態。
- ステップ4:自作の圧入機を使い、ローターの蓋をしっかりとプレス固定。
- ステップ5:大破したローター内に折れ込んで残っていた「中心軸」を無事に抜き取ることに成功。
- ステップ6:折れ込んだ軸の除去とベアリング蓋の圧入を終え、回転機能が見事に復元!(※折れた軸本体の確実な接合方法については、現在もいくつかの方法を検討中です)
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🛠️ 二番車の歯欠け
こちらは現時点で未着手です。歯車の歯を1枚ずつ再生・移植するには、顕微鏡レベルの非常に高い精度が求められます。今の自分の技術ではまだ敷居が高いと判断し、大人しくドナー機(あるいは別個体)からのパーツ移植を視野に入れつつ、保留としています。いつか技術が追いついた時に、意地でも再挑戦したい宿題です。
この失敗から学んだ3つの教訓
今回の時計大破という高い授業料を払って、私が得た教訓は以下の3つです。
- ケース構造は「絶対に」事前に調べる分解前にケースの型番や構造を調べ、ワンピースなのかスクリューなのか確認する。たったこれだけの数分の手間で、今回の悲劇は100%防げました。
- 「力技」が出そうになったら100%失敗している時計が、ネジが、裏蓋が開かない時、そこには必ず「開かない理由(構造やサビ)」があります。無理な力を加える前に、一度工具を置いて情報を集めるのが鉄則です。
- 壊してしまった時計も、最高の「教科書」になるもちろん壊さないのが理想ですが、自分でやらかした失敗の経験は、教科書を100回読むより強烈に脳裏に刻まれます。この壊れたクリスタルセブンがなければ、今の私の技術は絶対にありません。
📋 パーツ状態と現在の進捗まとめ
| パーツ | 破損状態 | 現在の進捗 |
| 干支足(文字盤の足) | 衝撃により2本とも根元から折損 | 0.6mm下穴+ハンダ付けにて修復完了 |
| 自動巻きローター | ベアリング分解・中心軸折れ | 🔄 ベアリング(14個)は復元、軸の接続方法を検討中 |
| 二番車(ギヤ) | ゼンマイ未解放による歯欠け(3本) | 📋 今後の課題として保留(パーツ移植または将来の宿メントへ) |
おわりに
この思い出のクリスタルセブン(27石)は、現時点ではまだ完全復活には至っていません。
それでも私にとって、どんな高級時計よりも特別な一本です。なぜなら、ここには私のDIY修理の「原点」である失敗と学びがすべて詰まっているからです。
モノ修理の旅はまだまだ続きます。
次回は、難関である「自動巻きローター軸の修復方法」について、実際に検討・実践した内容を詳しく紹介する予定です。失敗の続きも含めて、ありのままのリアルな記録をお届けしますので、ぜひお楽しみに!
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