「National EZ7410」。
この型番を聞いてピンとくる方は、間違いなく道具を愛するプロか、筋金入りのDIY愛好家でしょう。
Panasonicブランドに統合される前の「National」時代に発売されたこのペン型インパクトドライバーは、そのコンパクトさとタフさから、今なお多くの現場で現役として活躍する伝説的な名機です。
しかし、長年の使用により「回転が重い」「異音がする」「トルクが落ちた」といった症状が出ていませんか?
それは寿命ではなく、内部に溜まった汚れや劣化したグリスが原因かもしれません。
この記事では、愛用のEZ7410を「買い替える」のではなく**「徹底的にメンテナンスして蘇らせる」**ための手順を解説します。
- 全分解によるギアボックス清掃
- モーターのIPA漬け込み洗浄
道具への愛着と、自分で直す達成感を求めるあなたへ。このメンテナンスで、EZ7410の軽快な回転を再び手に入れましょう。
今回のメンテナンスメニュー:蘇らせる3つの柱
EZ7410のパフォーマンスを最大限に引き出すため、以下の3点に集中してメンテナンスを行います。
| 項目 | 目的 | 効果 |
| 1. 全分解とギア清掃 | 劣化したグリスや金属粉の除去 | ギア抵抗減、回転効率向上 |
| 2. 新しいグリス交換 | 摩耗防止とスムーズな動作確保 | 異音低減、トルク回復 |
| 3. モーターIPA洗浄 | ブラシ・整流子周りのカーボン除去 | 接点不良解消、パワー回復 |
特に「3. モーターのIPA洗浄」は、分解リスクの高いモーター内部を、分解せずに洗浄する裏技的なテクニックです。
準備するもの:必要な道具と材料
作業を始める前に、以下の道具を揃えておきましょう。
- 精密ドライバーセット(マグネット付きが必須)
- IPA(イソプロピルアルコール)(純度99%以上推奨)
- 高品質グリス(樹脂ギア対応のリチウムグリス等)
- 洗浄用容器・ブラシ(歯ブラシや平筆)
- 綿棒・ウエス(キムワイプなど繊維が出にくいもの)
- ピンセット(細かい部品用)
- スナップリングプライヤー(チャック分解時にあると便利)
【重要:IPAの取り扱いについて】
IPAは引火性が高く揮発しやすい溶剤です。必ず火気厳禁・換気の良い場所で作業してください。また、ゴムや一部のプラスチックを侵す恐れがあるため、長時間の浸漬には注意が必要です。
- 精密ドライバーセット :分解には精度の高いドライバーが必須です。
- IPA(イソプロピルアルコール):
洗浄の主役。薬局では見つけにくいことも多いためECでの購入がスムーズです。
おすすめ: IPA 純度99.9%以上(高純度で電子部品洗浄に最適)
- メンテナンス用グリス:
おすすめ: タミヤ セラグリスHG(樹脂パーツへの攻撃性が低く、入手しやすいリチウムグリス)
- 繊維が出ないウエス:糸くずがギアに入ると故障の原因になるため、ティッシュはNG
【実践1】EZ7410の分解:慎重さと構造理解
EZ7410はコンパクトなボディに部品が凝縮されています。構造を理解しながら慎重に進めましょう。

1. バッテリーを外し、ネジを抜く
誤作動防止のため、必ずバッテリーを外します。
筐体を固定している5本のネジを外します。グリップのバッテリー挿入口にある**「止め金具」2つ**は、マイナスドライバーでスライドさせて外してください。

2. 筐体を開封する
ネジと金具を外したら、筐体をゆっくり開きます。
内部にはモーター、スイッチ、基板、ギアボックスが収まっています。特にスイッチ周りの配線は非常にデリケートです。断線させないよう、無理に引っ張らず慎重に扱ってください。
3. ユニットの取り出し
スイッチ部分からモーター、ギアボックスからモーターを手で慎重に引き抜きます。これで「モーター部」と「ギアボックス部」に分かれました。



【実践2】ギアボックスの洗浄とグリスアップ
回転効率低下の主原因である、ドロドロになった古いグリスを除去します。
1. ギアボックスとセンサーの分離
まず、ギアボックス先端のスプリングを手で回して外し、フォトセンサーと配線を分離します。
メモ:フォトセンサーの役割
ネジ締め時に設定トルクに達するとクラッチが作動し、金属爪が光を遮断することでモーターを停止させる「オートストップ機能」を司る重要な部品です。



2. ギアボックス内部のギアをすべて取り出す

3. ドリルチャックの分解(難所)
ここは細かい部品が多いので紛失に注意してください。
1.先端の分解:
Cリング → ワッシャー → ツマミ → 金属ボール(2個)の順で外します。
Tips: Cリングを飛ばさないよう、ビットを挿した状態で作業するのがおすすめです。


2.軸の引き抜き:
軸を固定しているスナップリングを外し、ワッシャー、金属ボール(18個)を外します。
抜いた軸からEリング、3つ突起ワッシャー、ライナーを順に外します。
【発見】
今回の個体では、内部の「3つ突起ワッシャー」の爪が6本中5本も折れて散乱していました…。残念ながら交換部品は入手困難なため、清掃してそのまま戻します。(これでも動作はします)





4. 洗浄とグリスアップ
- 洗浄: パーツクリーナーやIPAを使い、古いグリスと金属粉を徹底的に洗い流します。
- 乾燥: 溶剤を完全に揮発させます。
- グリス塗布: 新しいグリスを「薄く均一に」塗布してギヤボックスに組み戻します。多すぎると抵抗になり、少なすぎると摩耗します。樹脂対応のグリスを使用してください。




【実践3】禁断の(?)モーターIPA洗浄
ブラシモーターの不調原因の多くは、摩耗したブラシの粉(カーボン粉)が整流子の溝に詰まることによるショートです。
通常は分解清掃しますが、リスクが高いため**「漬け込み洗浄」**を行います。

手順
- 準備: モーター単体にし、整流子(ブラシ側)を下に向けて持ちます。
- 漬け込み: 小さな容器にIPAを入れ、ブラシと整流子部分だけが浸かるようにします(モーター全体をドブ漬けしてはいけません)。
- 洗浄: 液中で軸を指でゆっくり回します。IPAが黒く濁り、カーボン粉が出てくるはずです。これを液が綺麗になるまで2〜3回繰り返します。
- 乾燥: これが最重要です。半日ほど風通しの良い場所で完全に乾燥させてください。
【警告】
これはメーカー推奨外の方法です。自己責任で行ってください。IPAが軸受のグリスやコイルの絶縁を侵すリスクを避けるため、長時間の漬け込みは避け、ブラシ付近のみに限定してください。

【実践4】組み立てと動作確認
全てのパーツが綺麗になったら、逆の手順で組み立てます。
- ギアボックスとモーターの合体: 噛み合わせを確認しながらセットします。
- 配線の取り回し: 筐体の溝に配線がしっかり収まっているか確認します。ここが浮いていると、ケースを閉じる際に断線します。
- 動作チェック: バッテリーを入れ、トリガーを引きます。
「キュイーン!」
どうでしょうか?
異音が消え、トルクフルな回転音が戻ってきたはずです。

まとめ:メンテナンスは道具への敬意
National EZ7410のような名機を長く使い続けることは、単なる節約以上の価値があります。それは「使い捨て」へのアンチテーゼであり、良い道具を作った技術者への敬意です。
今回のメンテナンスを行えば、愛機はまだまだ現役で戦えます。ぜひ、週末のDIY時間を使ってチャレンジしてみてください。
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