この記事で分かること
- ミネラルガラス風防は「砥石」で研磨できるのか?(結論:できる)
- ダイヤモンドヤスリ→砥石→酸化セリウム→セラミックコーティングの全工程
- セイコー5アクタス(6106-7480)のスクリューバック分解・風防の外し方
- 風防交換 vs DIY研磨、どちらが得か?の判断基準
はじめに:「ガラス風防は傷ついたら終わり」は本当か?
メルカリでセイコー5アクタス(SEIKO 5 ACTUS 6106-7480)を手に入れた。
1970年代の国産自動巻きの中でも、シャープなケースデザインと美しい文字盤で人気の高い一本だ。しかしコンディションは想像以上に悪く、風防(ミネラルガラス)が傷だらけで文字盤がクッキリ見えない状態だった。
プラスチック風防(アクリル風防)ならヤスリがけ→コンパウンド仕上げで傷が消えることは広く知られている。しかしガラス風防は、傷がつくと「交換するしかない」と思われているのが一般的だ。
本当にそうなのか?包丁やノミを砥ぐ砥石でガラスが研磨できるのでは?
今回はその仮説を実際に試した全記録をお届けする。
セイコー5アクタス(6106-7480)とは
SEIKO 5 ACTUSは、セイコーが1971年から展開した「5つの機能(防水・自動巻き・日付・曜日表示・耐衝撃性)」を備えたスポーティラインのひとつ。
6106-7480はスクエアケースにシルバー×ブラックの文字盤を持つモデルで、1970年代のジャパニーズウォッチらしい直線的なデザインが特徴。キャリバーはCal.6106(自動巻き、21石)を搭載。
今回入手したものは動作に問題はないが、風防の傷と曇りが著しく文字盤の美しさが損なわれている状態。風防を交換するか研磨するか——まず相場を調べると、同型の風防は1,000円前後で入手できる場合もある。しかし今回はあえて研磨の道を選んだ。
💡セイコー5アクタスについてもっと知りたい方へ 6106系キャリバーは1969年〜1980年代にかけて広く使われたセイコーの主力自動巻きムーブメント。アクタスシリーズの他、5スポーツ、ロードマチックなど多くのモデルに採用された信頼性の高いムーブメントだ。
📸 セイコー5アクタス21石の自動巻きムーブメントCal.6106
研磨 vs 交換:どちらを選ぶべきか?
| 風防交換 | DIY研磨(本記事) | |
|---|---|---|
| コスト | 500〜2,000円(風防代) | 砥石を持っていれば実質ほぼ0円 |
| 時間 | 30分以内 | 2〜3時間(仕上げ込み) |
| 難易度 | 低い | 中程度(根気が必要) |
| 向いているケース | 風防が安く手に入る場合 | 希少モデル・砥石を持っている場合 |
結論: 1,000円前後で風防が手に入るなら交換の方が楽。ただし以下に当てはまる場合は研磨を検討する価値がある。
- すでに砥石(包丁・ノミ・鉋用)を持っている
- 同型の風防が廃番・入手困難なモデル
- DIYが趣味で包丁や刃物を砥ぐ予定がある(砥石は万能の道具だ)
- 酸化セリウムがある、または入手しやすい環境にある(入手先Amazon、アリエクなど)
使用した道具・材料
研削・研磨工具
| 工具 | 番手・種類 | 備考 |
|---|---|---|
| ダイソー ダイヤモンドヤスリ | 400番(用) | しなるので風防の縁の削りに最適 |
| ダイヤモンドヤスリ(メルカリ購入) | 400番・600番 | 平面の粗削りに使用 |
| キング砥石 | 2000番 | 中研ぎ |
| 研承 成 | 6000番 | 仕上げ研ぎ |
| ナニワ 剛研 輝 | 12000番 | 超仕上げ |
| 酸化セリウム | — | 水に溶かしてスラリー状で使用 |
| バフ + 電動ドライバー(電ドラ) | — | 最終研磨に使用 |
分解工具
- 3点式裏蓋オープナー(スクリューバック用)
- オシドリ押し(細い棒状のもの、またはマチ針で代用可)
- ムーブメントクッション(ケース)
- 作業マット、手袋(指サック)
3点式裏蓋オープナー(または明工舎等の強力オープナー):安いものでも開きますが、しっかりホールドできるものが安心です
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ポチップ
仕上げ材料
- セラミックコーティング剤(自動車業務用・メルカリで小分け品を購入)
作業手順:ケース分解から風防の取り外し
Step 1:ベゼルを外す
アクタスの角型ケースのベゼルは、こじ開け工具(ケースオープナー)をベゼルとケースの隙間に当てて外す。無理に力をかけるとケースを傷つけるため、隙間を確認しながら慎重に。
💡Tips:12時位置付近にベゼルを外すための専用の隙間(ノッチ)があるのでベルトは外しておく。
📸 こじ開けを使って風防を開ける様子(左右にスワイプして見てね!)
スクロールできます12時位置付近にベゼル取り外し用の専用の隙間(ノッチ) 時計用こじ開け工具セイコーS-261
🛠️ 時計を傷から守る、信頼の国内メーカー製「こじ開け」
ベゼルやスナップバック式の裏蓋を開ける際、安価な工具を使うと刃先が逃げてケースに深い傷をつけてしまう(あるいは過去の私のように大惨事になる)危険があります。
今回使用しているのは、国産時計工具の定番「セイコー(SEIKO)S-261」。刃先の強度と絶妙な角度が圧倒的で、硬いベゼルもスッとこじ開けられます。数百円の投資をケチって大切なヴィンテージ時計を傷つけないためにも、最初からこれを1本持っておくのが正解ルートです。
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Step 2:スクリューバック裏蓋を開ける
3点式オープナーをスクリューバックの溝にしっかり噛み合わせ、反時計回りに回して外す。溝が浅い場合はオープナーが滑りやすいので、薄いニトリル手袋などゴムシートやビニールシートを挟んで滑り止めにするといい。
Step 3:オシドリを押して巻真(リューズ)を抜く
ムーブメントを傷つけないよう、まずリューズを「2段引き」の状態にする。次にオシドリ(ムーブメント側面のリューズロック解除ボタン)を細い棒かマチ針で押しながら、リューズをゆっくり引き抜く。
💡6106系のオシドリ位置: ケースの3時側・ムーブメント横に小さなボタン状の穴(窪み)として存在する。巻き芯の近くにある。
マチバリで押している所がオシドリ
Step 4:ムーブメントをケースから抜く
オシドリを押した状態でリューズを抜いたら、ケース裏にクッションケースをあてがいひっくり返してムーブメントを慎重に取り出す。すんなり出てこない時は6時側からの押し出しが一般的だが、どちらから押すかはケース形状で確認する。ムーブメントはガーゼや布の上に置いて保護する。
📸ムーブメントをクッションケースに取り出している様子
傷だらけの風防でわからなかったが出てきた文字盤は綺麗だったのでホッとした
📸固くなり交換が必要な裏蓋パッキン
Step 5:ケース裏から風防を押して抜く
ムーブメントを抜いた後、ケース裏側(内側)から風防を指で押すと、ぽこっと外れる。ベゼルリング(風防を固定するリング)が別体の場合はそちらも外しておく。
取り外した風防ガラスと黒い風防パッキンが残ったままの時計ケース本体
風防の研磨工程:傷だらけのガラスを蘇らせる
Phase 1:粗削り(ダイヤモンドヤスリ 400番 → 600番)
まずダイソーのダイヤモンドヤスリ(400番)で風防の縁を削る。このヤスリは適度にしなるため、風防の湾曲した縁を削るのに非常に都合がいい。次にダイヤモンドヤスリ400番と600番で風防の表面全体を平らに削っていく。
⚠️ 重要ポイント
必ず「水」をつけながら削ること。乾いた状態で削ると摩擦熱が発生し、ガラスにクラック(ひび割れ)が入る危険がある。
📸粗削り:ダイヤモンドヤスリ 400番 → 600番(左右にスワイプして見てね!)
スクロールできますダイソーのダイヤモンドヤスリ(400番) ダイソーダイヤモンドヤスリで削り終わった後に水で洗い流してすりガラス状になった風防 荒削り中の砥面 ダイヤモンドヤスリで削り終わった後に水で洗い流して均一なすりガラス状になった風防 使用した400番と600番のダイヤモンドヤスリ2本
Phase 2:中研ぎ(砥石 2000番)
ダイヤモンドヤスリで粗削りが終わったら、砥石(キング砥石 2000番)で研いでいく。
💡 砥石研磨のコツ
- 砥ぎカスは洗い流さず残したまま進める(砥粒が研磨材として働くため)
- 砥石が乾かないように少量の水を足しながら研ぐ
- 風防を砥石に対して「円を描くように」動かす(一方向だけでなく複数方向からアプローチする)
2000番の段階で風防の外側はある程度透明になってくるが、真ん中付近に曇ったような「研ぎ残し」が出やすい。これは中央部に圧力が均一にかかっていないためで、意識的に中央を押さえながら研ぐことで解消される。部に圧力が均一にかかっていないためで、意識的に中央を押さえながら研ぐことで解消される。
📸中研ぎで使用したキング砥石 2000番
🔪 ガラスも刃物もこれ1本!万能の「キング砥石 2000番」
風防の中研ぎに使用したのは、ごく一般的な包丁・ノミ用の「キング砥石(中仕上用 2000番)」です。適度な研磨力で、ダイヤモンドヤスリで荒れたガラス表面を均一なすりガラス状に整えてくれます。
時計の風防研磨はもちろん、ご家庭の切れなくなった包丁や、DIY用の刃物研ぎまでカバーできるまさに「万能の道具」。一家に一台あって損はないベストセラーです。
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ポチップ
Phase 3:仕上げ研ぎ(砥石 6000番 → 12000番)
6000番(研承 成)で曇りが取れてきたら、12000番(ナニワ 剛研 輝)で仕上げる。12000番まで来ると、風防の表面はかなり透明感が出てくる。ただしこの段階でも完全な光沢には至らない。それが次のPhaseで劇的に変わる。
(※間に8000番辺りを挟むと、もう少し時間短縮できるかもしれない。)
📸仕上げ研ぎで使用した砥石 6000番(研承 成) → 12000番(ナニワ 剛研 輝)
📸仕上げ研ぎ後の少し曇りがある風防
👇シャプトン 刃の黒幕5000番
研承 成6000番は入手困難なため近しい砥石
ポチップ
👇ナニワ 剛研 輝
ポチップ
Phase 4:最終研磨(酸化セリウム + バフ + 電動ドライバー)
これが今回の仕上げの核心だ。
- 準備:酸化セリウムを水に溶かして白色のスラリー(研磨液)状にする。濃度の目安は「牛乳より少し薄い白濁」程度。
- 磨き方:電動ドライバーにバフを装着し、スラリーを少量塗布しながら風防を10分以上磨く。ガラスが割れない程度にしっかり押さえつけて作業し、バフが乾いてきたら水を少量追加する。 (※乾いたまま押さえつけると、ガラスが高温になり割れるので要注意!経験談)
🔬 なぜ酸化セリウムが効くのか?(化学的機械研磨:CMP)
- 機械的作用:硬い酸化セリウムの粒子がガラス表面を物理的に削る
- 化学的作用:酸化セリウムがガラスの主成分(二酸化ケイ素)と反応し、表面を一時的に軟化させる
この2つが組み合わさった研磨法を「CMP」と呼び、砥石だけでは取り切れない微細な傷と曇りを除去できる。半導体ウエハーの研磨にも使われる原理で、ガラスとの相性は抜群だ。
10分間磨き続けると予想以上に透明度が上がる。ここが一番感動するポイントだ!だ。
📸最終研磨(酸化セリウム + バフ + 適当なプラスネジ+プラスドライバービット+電動ドライバー)
📸最終研磨後の綺麗になった風防
🧪 ガラス風防を「透明」に変える魔法の粉
砥石での傷消し作業の総仕上げとして、絶対に欠かせないのがこの「酸化セリウム」です。単に物理的に削るコンパウンドとは違い、ガラスと化学反応を起こして表面を滑らかにするため、ミネラルガラス特有のガンコな曇りが嘘のように晴れていきます。
車のガラスのウロコ取りから、時計の風防レスキューまで幅広く使えるDIYの必須ケミカル。これがないと完全な透明にはたどり着けません。
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Phase 5:セラミック系コーティング
最終工程として、自動車業務用のセラミックコーティング剤をメルカリで小分け購入して施工した。セラミックコーティングを施すことで、
- 微細な傷の光反射を低減し透明度がさらに上がる
- 撥水効果で汚れがつきにくくなる
- 研磨後の表面を保護する
施工手順はコーティング剤の指示に従い、水で薄め少量を布に取って薄く伸ばし、乾燥後にポリッシュクロスで磨き上げる。
📸風防ガラスの表面に液体セラミックコーティング
👇セラミックコーティング剤
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組み立て・完成
分解と逆の手順で組み立てを進める。 風防パッキンは清掃後、シリコングリスを薄く塗布。風防は手ですんなりと圧入できた。
時計用裏蓋閉じ器(風防挿入器)を使用して、ベゼルと風防をケースに「パチン」と音がするまで確実に圧入。ケースにムーブメントを収め、スクリューバックの裏蓋をねじ込んだら、すべての作業が完了だ!
📸組み立て
📸完成!
ビフォーアフター
ビフォー:ガラス風防研磨前 アフター:ガラス風防研磨後
👇シリコングリス:パッキン保護にはこれ
ポチップ
👇裏蓋閉じ器 18個駒セット
ビンテージ日本製も持っているがこちらの方が使いやすくて安い。
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結果
磨き上げたセイコー5アクタスを56KS(キングセイコー)と並べてみた。文字盤の美しさが引けを取らないレベルまでピカピカになった。
傷だらけだった風防が、ダイヤモンドヤスリ→砥石→酸化セリウム→セラミックコーティングという工程を経て、光学的な透明度を取り戻した。
📸「56KSキングセイコー」と「セイコー5アクタス」を隣に並べた
セイコー5アクタスという時計について
高級機キングセイコーと並べると、見た目の美しさで大きな差がないと感じる。実用機アクタスは若干厚みがあるが、文字盤のデザインや仕上げの質感は十分に「逸品」の領域に入ると思う。
3,000〜5,000円台で買えるジャンク品でも、風防を磨き、オーバーホールをかければキングセイコー・グランドセイコーと肩を並べる存在感を持つ。これが国産ヴィンテージの面白いところだ。
まとめ
- ミネラルガラス風防は砥石で研磨できる。プラスチック風防ほど簡単ではないが、根気があれば十分に透明度を取り戻せる。
- ダイヤモンドヤスリ→砥石(2000→6000→12000番)→酸化セリウムCMP→セラミックコーティング の4段階が今回の正解ルート。
- 1,000円前後で風防が手に入る場合は交換が現実的。ただし砥石を持っている人・希少モデルの場合は研磨は十分選択肢になる。
- 酸化セリウムの「化学的機械研磨(CMP)」はガラス研磨において非常に強力で、砥石だけでは取れない曇りを一掃できる。
- DIYで包丁やノミ・鉋を砥ぐ習慣のある人には、砥石は腕時計の風防研磨にも転用できる万能の道具だ。
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