はじめに:なぜ私は、工具を積んで西へ走るのか
「実家の壁がボロボロで……」 遠く福岡で暮らす親から届いた写真。そこに写っていたのは、私が育った家が、静かに朽ちていこうとしている姿だった。
業者に見積もれば、外壁塗装だけで100万円はくだらない。 だが、私には技術がある。そして、頼れる相棒(いすゞコモ)がある。
「なら、俺が全部直してやるよ」
これは、神奈川から福岡まで片道1300km。愛車を「動く工具箱」に変え、自分の技術と情熱のすべてを注ぎ込んで実家を再生させた、ひと夏(×3回)の冒険の全記録である。
第1章【移動編】1300kmの「動く工具箱」ひとり旅
飛行機で行けば2時間。だが、私が選んだのは愛車E25キャラバンでの3日間の旅だ。 なぜなら、現地調達できない「使い慣れた道具」と、大量の資材を運ぶ必要があったからだ。そして何より、この相棒との旅そのものが、私にとっての儀式だった。
- ルート戦略: 経済性を重視し、山陰道の無料区間や国道1号・23号バイパスを駆使。
- 旅のコスト: ガソリン代・高速代・宿泊費込みで片道36,861円。新幹線の1.5倍の値段で、トラック一杯分の荷物を運べ、あちこち寄り道できる。これがバンライフの真骨頂だ。
- 燃費の知恵: 時速80km巡航を徹底し、2.4Lガソリン車でリッター8.86kmを記録。「急がば回れ」は燃費にも通ずる。
[👉 詳細記事:小田原から福岡1300kmバンライフ旅の費用と燃費]

第2章【外装編】足場も自分で。家の「寿命」を延ばす戦い
実家に到着して愕然とする。屋根、外壁、軒天……傷みは深刻だった。 高所作業は危険だ。だが、知恵を使えば安全は買える。
1. 足場は「借りる」と「組む」のハイブリッド
プロに頼めば数十万円する足場。私は「くさび緊結式足場」を個人レンタル(10日間77,000円)し、さらにハシゴと単管パイプを組み合わせたDIY足場でコストを極限まで圧縮した。
- 安全への投資: ここはケチってはいけない。ワークマンの滑らない靴「親方寅さん」と、2本掛けの命綱。これらが生死を分ける。
[👉 詳細記事:足場を個人でレンタルした価格と使用レビュー]

[👉 詳細記事:外壁塗装のDIYで、はしごを足場にできる?3つの安全対策]

2. 塗装:黒と白のモダン・コントラスト
採用したのは、コストと性能のバランスが良いシリコン塗料と、焼杉板用の「ナフタデコール」。 ボロボロだった壁が、黒い焼杉と白いモルタルのコントラストで渋く生まれ変わる。その姿は、まるで家が若返ったかのようだ。
- 費用対効果: 総額約30万円。業者の1/3以下で、納得のいく仕上がりを手に入れた。
[👉 詳細記事:外壁モルタル塗装DIY。シリコン塗料]

[👉 詳細記事:外壁焼杉板塗装DIY。キシラデコール同等品ナフタデコール]

3. 補修:軒天の再生
軒天は耐久性の高いケイカル板に張り替え、見えない部分も完璧に仕上げた。
[👉 詳細記事:剥がれた軒天ベニヤをケイカル板でDIY修理]

第3章【減築編】思い出を削り、家の未来を創る
塗装を終えた翌夏は、今回のDIYリフォームで、最も大きな決断。それは「家を小さくする(減築)」ことだった。 高度経済成長期に増築を重ねた家は、今の家族には広すぎ、維持管理の負担(雨漏りリスクや固定資産税)だけが重くのしかかっていた。
私は、自らの手で**「2階の6畳」と「1階の6畳」を切り離す**ことに決めた。
1. 自分の歴史を解体する
2階の6畳間。そこは、幼稚園から小6まで妹と笑い転げた場所。そして中学生から20歳で結婚し家を出るまで、私の多感な時期を包み込んでくれた「初めての一人部屋」だった。 壁の傷、床の軋み、そのすべてに私の記憶が刻まれている。
1階の6畳間。そこは、かつて祖父母が暮らし、毎日美味しい匂いを漂わせていた台所だった場所。 それらを自らの手で壊していく作業は、正直、胸が締め付けられる思いだった。だが、放置され朽ちていくのを待つよりは、自分の手で「引導を渡し、次へ繋げる」ことが、この家に対する誠実さだと考えた。
2. 「引き算」で見えてきた光
精密機器の修理と同じだ。余計な負荷を取り除けば、本体は軽やかになり、寿命は延びる。
- 2階の減築: 屋根の重みが減り、耐震性が向上。雨漏りの温床だった複雑な接合部が解消された。
- 1階の減築: 暗かった裏手に光が差し込み、風が通り抜けるようになった。


3. 減築DIYの過酷さと達成感
プロでも敬遠する減築作業。柱を切り、壁を剥がし、瓦を補修する。作業中に瓦を割ってしまうトラブルもあったが、それすらも「J-Bウエルド」で補修し、乗り越えてきた。 家を小さくしたことで、外壁のメンテナンス面積も減り、これからの両親の暮らしは格段に楽になるはずだ。
「捨てる」のではない。「守るために、削る」のだ。 自分の過去を自らの手で解体し、更地になった場所に新しい風が吹いたとき、私はこの家と本当の意味で「再会」できた気がした。
[👉 詳細記事:J-Bウエルドで割れた瓦は接着できるか?]

第4章【内装編】50年の時を超え、漆喰で呼吸する家へ
外側を守った後は、内側の再生だ。 薄暗かった土壁の和室。ここを、明るく調湿性のある「漆喰(しっくい)」で塗り替える。
- 下地との格闘: アク止め、パテ埋め……。漆喰塗りは「塗るまで」が9割だ。古釘のサビやヤニとの戦いを経て、真っ白な壁が現れる。
- 鏝波(こてなみ)仕上げ: プロのように平らにはできない。だからこそ、あえてコテ跡を残す。その陰影が、夜の灯りで美しく浮かび上がる。
[👉 詳細記事:築50年の実家をDIY!繊維壁&石膏ボードを「漆喰」で統一する方法]

第5章【外構編】庭師も顔負け? 1万円で叶える「和モダン」
家が綺麗になると、庭の粗が目立つ。 予算は限られている。ここでも「工夫」という名のDIY精神が火を吹く。
- 立水栓カバー: 錆びた水道管を、軽天材(建築資材)でカバーし、アイアン風に塗装。わずか数千円でデザイナーズ物件のような水栓が完成。
- ポーラスコンクリート: 水はけの悪い足元には、透水性のコンクリートを施工。水たまりができず、高齢の親も歩きやすいバリアフリーな水受けを実現。
- 墨モルタル花壇: 松煙墨を混ぜた黒いモルタルで、シックな花壇を造作。既製品にはない風合いが、庭を引き締める。
[👉 詳細記事:DIY立水栓カバーを軽天材でアイアン風に自作]

[👉 詳細記事:【立水栓 水受け】DIYポーラスコンクリートで和モダンな浸透水受け]

第6章【ツール編】「直す生き方」を支える相棒たち
このプロジェクトを支えたのは、私の腕だけではない。信頼できる道具たちがいたからこそ、成し遂げられた。
- J-Bウエルド: もはや接着剤ではない。「溶接」に近い強度を持つ、DIYerの最終兵器。
- 親方寅さん: 屋根の上で私の命を支え続けた、最強の作業靴。
- いらかくん: 瓦屋根にハシゴをかけるなら、これがないと始まらない。
道具への投資は、未来への投資だ。彼らは裏切らない。
[👉 詳細記事:エアーコンプレッサー電源ボタン修理(道具も直して使う)]

【劇的再生】実家DIYリフォーム:ビフォーアフター・ギャラリー
1300kmの旅から始まり、自分の過去(子供部屋)を削り、傷んだ肌(外壁)を塗り替え、呼吸(漆喰)を取り戻す。
数年に及ぶ「救出作戦」の結果を、ここで一気にお見せします。
- 【外観】 減築前(増築で複雑化した実家)→ 減築後(スッキリとしたモダンな外観)
- 【2階】 解体中の現場 → 空が見える、光と風が通り抜けるようになった駐車場
- 【1階】 解体中の現場 → 更地になり、光と風が通り抜けるようになった裏庭
解体中の1階 減築後の一階外観
- 【外構】 駐車場拡張中 → 駐車場拡張後
- 【外構】 一階減築中の現場 → 整った裏庭と廃材の瓦で仕切った畑
解体中の一階 減築後の外構(庭と畑)
- 【外構】 玄関先の花壇ビフォー→ 自作した和モダンな花壇
花壇ビフォー 花壇アフター
- 【外構】 むき出しの水道管 → アイアン風に自作した立水栓
- 【内装】 煤けた古い繊維壁 → 真っ白な漆喰壁と、コテ跡
最後に:一生モノは、あなたの手の中に
もし、あなたの大切な場所が、あるいは思い出の詰まった道具が、時の流れに負けそうになっているなら。
「もう古いから」 「専門家に任せないと無理だから」
そんな言葉で、自分自身にブレーキをかけないでほしい。 プロの道具、確かな技術、そして何より「守りたい」という強い想いがあれば、家だって、車だって、炊飯器だって、何度でも蘇らせることができる。
私はこの夏、実家を直すことで、単に建物を綺麗にしたのではない。 家族の歴史を肯定し、これからの時間を守り抜く「自信」を手に入れたのだと思う。
「もの修理」——それは、モノを救うと同時に、自分自身の生き方を整える行為だ。
さあ、次はあなたの番だ。 何から始めようか? どんな相棒を救い出そうか? あなたの「一生モノを守る旅」が始まるのを、私はここで楽しみに待っている。
















